実際に酒蔵に泊まり、杜氏さんたちと同じように酒造りの一部である麹作りを体験する、1泊2日のプログラムだ。
じゃらん編集部時代、MOOK誌で「蔵元に泊まる」という特集記事があった。見た瞬間に「これは絶対に体験したい」と思ったが、一人で参加する勇気がなく、かといってよほど好きでないと一緒に行ってくれないだろうというお高い金額でもあった。意を決して日本酒好きの同僚に声をかけたところ、「行こう!」と背中を押してくれた。だが、結局いろいろあって、3年経ってようやく実現した。
体験して驚いたのは、酒造りそのものはもちろんだが、主催側の酒造りに向き合う真剣さだった。
洗米や浸漬の時間は秒単位で管理され、麹室では「絶対に動かないでください」と真剣な声が飛ぶ。体験だからといって特別に簡略化された工程ではない。自分たちが手がけた麹は、そのまま商品として販売されるという説明を受けた。「体験用」ではなく「本物」なのだ。そう思った瞬間、思わず背筋が伸びた。
もちろん、酒造りへの理解は深まった。
しかし、それ以上に印象に残ったのは、この体験を通して私を含む参加者全員が、長野県佐久という地域そのものへの興味や関心が高まり、好きになっていったことだ。
仕込み水のおいしさ、地元の新鮮食材や昔ながらの調味料を使った食事、酒蔵の歴史、土地の四季折々の気候、発酵文化。
一つひとつは日本酒を造るための要素だが、それらを知れば知るほど、「この土地だから、この酒が生まれるんだな」ということが自然と理解できる。
参加者同士で話していても、「また佐久に来たい」「違う季節にも訪れてみたい」という声が多く聞かれた。
目的は酒造り体験だったはずなのに、帰る頃には地域そのものに愛着が湧いている。
それが、とても印象的だった。
最近、「体験型観光」が注目されている。
しかし、体験は単に何かを「やってみる」ことだけではないと思う。
本当に価値のある体験とは、その土地の歴史や文化、人の想いに触れ、「またこの地域に来たい」と思わせる力を持っているものではないだろうか。
実際、このプログラムは決して安価ではない。それでも国内外から数多くの人が参加し、特に冬の酒造り体験はまさしく「酒造り」体験ができることもあり、他の時期より早めに予約が埋まるという。
その土地でしか得られない時間、その土地でしか出会えない人、その土地だから生まれた文化に触れる価値。その価値に魅力を感じる人が、このプログラムを選ぶ。それだけに、より熱量の高い時間を過ごすことができるのだ。
地域には、それぞれ固有の魅力がある。
その魅力を「見る」だけで終わらせるのではなく、「体験」として持ち帰ってもらう。
こういった積み重ねが、地域のファンを増やし、また訪れたいと思ってくれる人を育てていく。
今回のKURABITO STAYは、日本酒への理解を深める旅であると同時に、「体験が地域への愛着を育てる」ということを、改めて実感できた2日間だった。
<参考までに>
最初のオリエンテーションや座学で日本酒の製造工程や専門用語だけでなく、蔵元はじめ主催者の想いも語っていただく。衛生面の徹底の理由などを伺うと、蔵で作る商品に大きく影響することも多く、きちんとせねばと気持ちが引き締まる
蒸し上がった酒米を、スコップですくって桶に入れる作業。蒸気で手元が見えにくく、思った以上にすくいにくいし、入れる量も運ぶ人のことを考えて調整しないといけない。何度も繰り返すので、運ぶ人だけでなく、この作業もなかなかしんどい
すごい湿度が高く入っただけで汗が出てくる麹室の中の作業。杜氏さんが麹を器に入れて振りまいている間は、絶対にうごかないでくださいと厳しく言われる。麹が軽いので人が少しでも動くと、その風で麹が舞ってしまい、麹の付き方がムラになってしまう。外国人の参加者はじっと同じ姿で立っているというのが苦手だそうで、蒸し暑さとともに耐えられずにギブアップして退出した人もいるそう